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ドラゴンブレス(五竜岳遠見尾根コース:長野県)

2010年 4月 4日

 夜中、風が強弱を繰り返しながら、ポール一本のテントを揺らしていました。高気圧の中心が昨晩通過していったはずなので、これから下り坂なんだろうかと思いながらでしたが、朝はまだ快晴です。
 今日は五竜岳を制覇して、鹿島槍ヶ岳まで抜ける――そんな自信を持って身支度をしていました。


 寝坊気味の4時半起床で、インスタントラーメンをすすっての軽い食事でも、出発が5時半になりました。出発して間もなく、太陽が頭を出しました。


 遠見尾根が遥か眼下に見渡せます。否、その前には巨大な雪の斜面があります。


 ほぼ全部を雪に埋め尽くされた五竜山荘。


 朝焼けが輝こうとしている五竜岳。


 クラストした雪面に微かな明かりが照らし始めました。


 白岳、唐松岳方面。


 強く輝き始めた雪面。


 白岳と唐松岳の方も、強く輝き始めました。


 五竜岳に向かうと、程なくして斜度がきつくなります。そして、クラストした箇所が増えます。


 輝いているのは雪というよりも固い鱗のようです。


 尾根を上りきってしまったのですが、どうやら登山道から外れたらしい。途中、トラバースするルートがあったようです。
 …が、そんなことをできそうな場所はありませんでした。


 凄いところに立っています。竜の鼻の頭。


 雪が積もることさえできない岩の崖。人が近づけない、竜の顔面。


 これが、間違って歩いてきたところです。


 一旦落ち着ける場所に立ちましたが、まだ急な斜面が上に続きそうです。


 遥か続く、雪の山々。


 凄そうに見えますが、この辺りの雪の斜面は、このあとから出てくる幾多の場所に比べればマシな方です。


 快晴の空に鹿島槍ヶ岳方面の稜線が続きます。


 深く抉れた谷が里まで続いています。


 ようやく五竜岳の肩に着きました。荷物は少し下に置いてきたので、もう鹿島槍ヶ岳は諦めていますが、それでも不安ばかりが募っています。


 五竜岳山頂。
 正直、達成感よりも、美しい景色よりも、一刻も早く下山したいという感情の方が大きい。


 鹿島槍ヶ岳方面。


 剣岳方面。全面白銀の鱗に覆われています。


 そして、唐松岳方面。どこもかしこも、深い雪です。否、雪すら着かない場所の方が多かったかもしれない。


 日本海方面。水平線が遠く彼方に見えます。


 ここで、マッタリしたいと思っただろうか。否、全然思わなかった。これは、やってはいけない登山だと悟った瞬間だった。


 景色が『きれい』ではあるかもしれないが、それは偽りの感情だと思いながら、写真を撮っていました。


 ここを再びピッケルとアイゼンを使って下ります。
 山頂出発7時50分。12時までかかる覚悟で下ります。


 さて、ここからどうやって下山するのか。さっき通ってきた道が間違っているとするのならどこが正しい道だったのか。


 鋭い谷底。


 前の写真を撮ったところから1時間半が経ちました。
 ここに書くことも憚られるくらい、非常に危険で、非常につらい道を辿りました。もうこんなことは二度としたくない。


 この谷底にも落ちかけました。転ぶと、雪が凍っているので、止まることなく障害物のあるところまで滑っていきます。


 ただ一言、重いザックを背負って来るところではない。


 さっき、非常に危険だったところに比べたら、ここを伝って歩くのはまだマシな方。
 こうして日記を書いている今でも、自分の過信を呪います。


 五竜岳直下の凄惨な戦場は、峠を越えました。まだまだ厳しい戦いを強いられますが、それでも、さっきの1時間半の地獄に比べればマシになります。


 鋭い稜線の雪庇。一応その下には雪が付いていますが、鳥でもない限り降り立って良い場所ではないのではないかと思います。


 最後の急坂。赤い点みたいなのが、五竜山荘。


 据わりのいい岩に腰掛け、足を投げ出して休憩。


 やっと、五竜山荘のところまで下りてきました。朝眺めた雪の斜面。


 テントを張ったところ。
 ここで今回の山行を終わっていれば、気持の上でもずいぶん違ったであろうと思います。


 見えない炎を吐き付けた竜がその場に居ました。


 さて、見納めです。遠見尾根を戻りましょう。


 唐松岳方面に続く稜線。こちらの方がいくぶん五竜岳方面よりマシだったか。どのみち危険ですが。


 このこんもりした雪の向こう側に、遠見尾根方面へのルートもどきがあります。


 ひとまず休憩で、フルーツパックをいただきます。癒しのひととき。


 ふうたろう以外にもう一人ここを通っている人がいるみたいですが、その人はあまり迷いがなさそうな歩きをしているように見えます。


 ここからはある程度楽かと思っていたら、そんなことはありませんでした。
 登ってくるときは上しか見ませんから遠いだのキツいだので済みますが、下りの時はまるでスカイダイビングのようです。バンジージャンプです。まともに直立することもできませんでした。


 雪庇に真新しいヒビが入っています。左側を歩くと落ちる可能性もあります。


 さすがにこのまま直進はできませんでした。


 直立して前向きに下りられないので、膝をつき、時間をかけて下降です。虫の這った痕のようですが、これが唯一確実に進める方法でした。


 雪質が、直射日光で緩んでいたのもあって、アイゼンに雪がダンゴになってくっつきました。それも直立できない理由のひとつで、這いつくばった理由でもあります。
 しかし、こんなに長いと思った「道」はありません。


 やっと西遠見山との鞍部に立ちました。よくもこんな所を歩いたものです。


 山頂からここ、西遠見山まで丸6時間かかりました。嗚呼、本気で怖かった。


 これから遠見尾根を下ります。


 わかんを新たに装着して、進みます。


 遠見尾根は広めの尾根が続きます。流れたような跡があります。


 この辺りになって、ようやくこの辺りの風景がきれいであると思えるようになってきました。
 如何にとんでもないところを歩いていたのかが解ります。
 鋭い五竜岳を振り向いて。


 次に心配するのは、16時半に終わるゴンドラの営業に間に合うかどうか。


 若干慌てつつも、この辺りの景色は抜群です。


 なだらかで、幅の広い稜線であれば、景色を楽しむ余裕さえ出てきます。この余裕こそ、空気のような存在となっているのですね。


 山伏岳や恵那山などで楽しんでいたのは、こういう場所ばかりでしたね。雪山を楽しむにはこういうところがよいのです。マッタリしたいと思うところが。


 雪の稜線を眺め、改めて快適だと思う緩斜面の上。


 真正面左のゴツゴツしたのが五竜岳。あれは、危ないですよ…
 危ない、というのが先に出てくるくらい、本当に怖かったのですね。普段これだけを見ていたら、顔文字付きで驚喜しているはずです。


 しばらく、流していきましょう。


 鹿島槍ヶ岳の裾にカクネ里と呼ばれる谷があります。


 この木、何か春の芽が出てきています。


 鹿島槍ヶ岳の好展望。


 よく見ると、谷では多数表層雪崩が起こっているようです。


 少しずつ、怒れる竜が遠ざかっていきます。


 こんな所で、テントを張ろうとしたんだから、ポールだって落としますね。起こるべくして起こった事故です。


 時折、こういう細いところがあり、再び恐怖が蘇ってきましたが、それでも戻る以外にありません。


 中遠見山まで戻ってきました。景色は相変わらずよいですが、今までの疲れと、ゴンドラに間に合わない可能性も出てくる焦りとで、別のストレスに耐えなければならなくなりました。


 中遠見山を過ぎ、小遠見山が近づいてきました。しかし、その前に若干細い雪庇が。
 ただ、今までのよりはずっとマシだという安心というか慢心がありました。


 多くの人はここで踵を返すようです。それが普通なんでしょうね。今回、痛いほどよく解りました。


 小遠見山のトラバース分岐のところに着いたのは16時10分頃。あと20分でゴンドラ乗り場まで行くことはできません。
 この立て札にはゴンドラを運行している会社の連絡先があり、間に合わなさそうな人はここに携帯などで連絡ができるようになっています。可能な限りこの電話番号をメモっていくことを勧めます。


 電話すると、一応乗せてはくれるそうですが、17時を過ぎると追加料金が発生するといわれました。
 まあ、当たり前だと思います。残業とか手間とか余計にかかるんですものね。
 遠見尾根の向こうを見ながら、安堵感がこみ上げてきました。


 もうそろそろ、ドラゴンブレスも届かなくなってきました。


 ちょっと戦いたけど、ここらあたりは多くの人の足跡があります。幅も広いので、さっきほどの苦労はありませんでした。


 こういうところをスノボーとかで滑るんですね。ふうたろうにはできません。


 最後の急坂下り。踵でステップを切りつつ進めるので、意外と早く下りられました。


 登山口。ゴール間近です。


 ゲレンデから主稜線。もう夕方です。


 リフトは止まり、人影は皆無。


 従業員がゲレンデの整地をやっている以外は、活動している人はいない。


 17時10分頃でしたか、アルプス平のゴンドラ乗り場に着いたのは。超過料金が2000円と、大変値が張りましたが、特別に動かしてもらうのですから、それはしかたのないことです。


 とおみ駅。
 死闘の末、何とか五竜岳を登りきったわけですが、どうしても、大手を振ってクリアとは言えない後味の悪さが残りました。
 この後味の悪さは、翌日の日記にでも書きますか。
 このあと、体中筋肉痛にひきつりながら、特急などで帰りました。今回はオチはありません。ひどく疲れました…。


 というわけで、九死に一生を得るレベルの「冒険」になってしまった五竜岳登山が終わりました。
 ひとまず、こういう登山は自重しなければ。ふうたろうのやりたい登山ではありませんから。
 一応、#70五竜岳、準クリア。


天気:快晴(富山県下新川郡宇奈月町・長野県北安曇郡白馬村・大町市、移動中は含まない)
覚え書き:帰ってきたら関東は雨

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