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標高3063mのインドア(中岳避難小屋:静岡県)

2010年 8月 14日

 14日の朝がやってきた。避難小屋に置いてあるカップ麺はひとつ500円。ヘリで運んでくるのだからしょうがない。それよりも、外の天気が絶望的。強風とガスで、外に出れば一瞬で濡れる。たまったもんじゃない。
 というわけで、今日は停泊を決定する人が3人。


 停泊ということは、小屋に一日中とどまるということです。家で外に出ることなく、ずっとパソコンなどをやっているみたいに、避難小屋にとどまるのです。
 しかし、小屋にはパソコンもゲームもありません(ただし分子生物学や量子力学などの専門書はある)
 そうなると、やることは決まっていて、交流会をおっぱじめることです。8割方の人が小屋を出て行った9時以降になると、レギュラーでいるのは小屋番のNさんと新参の兄ちゃん含めて5人。千枚小屋や荒川小屋、稀に高山裏避難小屋方面から、入れ替わり立ち替わり、小屋にやってきます。その中の一部の人がこの中岳避難小屋での停泊を決め、仲間になります。
 しかし、中には仲間たり得ないのもいて、小屋番の注意にくってかかるのがいます。小屋の中にいたレギュラーや、速攻で停泊を決めた新参のさっきの兄ちゃんも、その暴言にはびっくりして唖然としています。いや、ふうたろう、殴られるかと思いましたな。できれば、ああいうのは二度と山に登らないでほしい。
 このオッサンとついていたオバハン、この小屋で一部始終を見ていたみんなの中では、小屋を出るまでずっと語られることになるのでした。
 とはいえ、ふうたろうもいつそうなるか解らない。彼らの行動を他山の石として見てはならないと思います。


 昼頃になっても全然天気は変わらず。むしろ悪くなっているような気がしなくもないけど、なんと、二人の子ども連れの4人家族がやってきました。
 …手も足も冷えまくっているのに、KくんもTくんも元気すぎます。小一時間みんなで遊んで、荒川小屋へと向かっていきましたが、荒川小屋でもあの調子で遊ぶのでしょうか。
 他にも、3人の、比較的若い女性が来ては、荒川小屋に向かいました。計7人が一気にいなくなって、小屋は静かになりました。


 夕刻近くになると、ガスと雨と強風にまみれた人々が転がり込んでくるようになります。一旦出て行かれたご夫婦がまた舞い戻ってきて、仲間になりました。単独のおっちゃんとか、自称雨女の姉ちゃんとか、少なくともこの同じテーブルの上にコッフェルを置いた者は皆、ハイパー宴会モードに陥るのでした。
 実は、小屋番Nさん、数学の微分幾何を学んでおられたそうで、物理なども達者のようです。だから、ところどころにそういう話が混じってきます。
 ここがふうたろうのようなプチインテリの脳みそを刺激します。そんな時に、歯学部生の兄ちゃんとが入ってきて、小屋番管理室に置いてある分子生物学の分厚い教科書(『Cell』)を使って解糖系の話をするとか、さすがにノーマルに小屋で話をしている人々を呆れさせたことでしょう。ふうたろうはアブノーマル側だったので想像しかできませんが。
 更に、歯学部生なので、歯の不安を相談してみたくなったSさんがいたりします。ヘッドランプを頭に付けてぽかーんと開けた口の中を覗き、覗かれる姿は、表現しがたいくらい爆笑ものです。
 ヾ(℃゜)オイオイ、ここ、一体何の見せ物小屋だよ!
 ※写真は自主規制で載せません。


 交流というものは形がないので語り尽くせないのですが、起きてから15時間ずっと、語りっぱなしの一日でした。標高3063m(Nさん談)の、周りには何もない小さな小屋では、話すことくらいしかありません。まあ、分子生物学は例外かもしれませんが。
 あの変な客が来たとき以外は、本当にみんな盛り上がっていたのではないでしょうか。いや、あの最悪な状況さえもみんなネタにしつつ盛り上がっていたかもしれません。ふうたろうも、文字通り五里霧中の山の中で、ずっと笑い転げていました。こんなに長時間語り合って笑ったのは、生まれて初めてじゃないかな。
 悪天候も停滞も、辛いことではあるけど、悪の塊ではありませんね。停滞していなければこのドラマは生まれなかった。ふうたろうの山(=人生)に、何だかとても重要な出来事のような気がします。
 でも、さすがに明日は出発したい。3日目の停泊はさすがにだれる。


天気:くもり時々雨、強風を伴い一時強く降る(静岡県静岡市、半径10m以内)

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