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「科学」が解らなくなった

2007年 9月 12日


 いつも通りの起床。曇った空。苗場山頂が懐かしいです。あの湿原で一日中ぼ~っとしていたい。
 電車の中でも、いつものように、『しんぶん赤旗』を読んでいました。『第5回中央委員会総会決定』とかいうのがありましたが、完璧にスルーしました。この頃、この新聞を重要な情報源として認識できなくなっています。

 今日の仕事は、昨日やりきれなかった、米の農薬抽出でした。米7本をGC-MSの抽出法でやるというのは、実は大変な作業なのです。あの産業廃棄物のカラムを3種類も使うのです。3×7=21。
 あと、GC-MSオペレータのSくんがマトリックス効果の実験をやっていたので、その検討。どうも、検量線を使う分析には、精度的な問題がありそうです。MSの方の感度、マトリックス効果、そういうものの影響を諸に受ける検量線法。他の分析機関は、どう対処しているんだろう?
 検量線法の他には、標準添加法内部標準法があります。標準添加法は、検出された同じ農薬を添加して、改めて分析したあと、加えた量をさっ引いて定量する方法です。内部標準法は、分析する対象物質に関係ない物質の感度を基準にして、他の物質の濃度を定量する方法です。内部標準物質を農薬以外の中から選んで決まった濃度加えなければなりません。
 ところが、インターネットの書き込みに、内部標準法はあまり使えないとあるのを、Sくんが発見。内容を見ると、「マトリックス効果が、内部標準物質と分析対象物質で同じように現れるとは限らないから」だそうです。「…当たり前やん。内部標準法は、だからこそファクターを出して計算するんやんけ。」
 すごく丁寧に書き込みがされていたそのサイトでしたが、やっぱり人の為すこと。間違い(言い間違いか、勘違いかは解らないけど)は避けられません。

 抽出も終わった17時。米7本にしてはとても早いと思います。僕は考え事をしていました。もっと基礎的な研究をやりたいと。大学院時代にやり残した、毒性や化学物質の生化学的性質の研究。
 苗場山の山頂で、Mさんと乾杯したときに飲んだ『三ツ矢サイダーレモン味』には、アセスルファムスクラロースが使われていました。アセスルファムは炭素、水素、酸素、窒素、硫黄の化合物ですが、スクラロースは炭素、水素、酸素、塩素の化合物です。山小屋で翌朝便所に行ったとき、その物質そのもの、あるいは代謝物が便所に行っているでしょう。もちろん、僕の飲んでいる医薬品類も、そうです。
 医薬品についていえば、その代謝物などが水域に流れ出しているという報告もあります。しかし、その結果何が起こるかは、誰も知りません。実際に、北欧の海で、虫除けのDEET(N,N-Diethyl-3-toluamide)やコレステロール合成阻害薬のクロフィブラートなどが微量ながらも検出されているといいます。また、様々な化学合成に利用されていたというPFOS(Perfluorooctane sulfonate)が日本の海で検出され※※、下水処理済みの水から、ハンドソープなどの殺菌剤などとして使われるトリクロサンやかゆみ止めのクロタミトンなどが検出されています※※※
 スクラロースはどうでしょう?アセスルファムは?毒性も問題ですが、環境中に蓄積する可能性はどうでしょうか。
 …やっぱり基礎研究は大事ですよ。

 皮肉にも、今日の日記を書くために1時間以上かけて家中から引っ張り出した資料は、大学院時代に集めた論文や『しんぶん赤旗』の記事でした。その当時のがむしゃらな自分を思い出して、ちょっと情けなく、悲しくなりました。今の僕は、いったい何をやっているのか、と。
 さらに追い撃ちをかけるように、『日本の科学者』(本の泉社)の9月号には、環境問題や化学物質の研究をされている山口英昌教授の記事。食の安全を、企業倫理や農政などからも斬り込んだ記事でした。当の教授は、もちろん、化学的な方面にも明るい。
 僕がやるべきこと、やれること、それが何なのか、解らなくなってきました。僕のやっていることが、そもそも、「科学」なのか、も。そうして、くすぶっている自分も、辛い。

天気:くもり時々雨、のち晴れ(東京都板橋区・茨城県取手市)


“Drugs and personal care products as ubiquitous pollutants: occurrence and distribution of clofibric acid, caffeine and DEET in the North Sea”

Stefan et. al. “The Science of the Total Environment” 295 (2002) 131-141

※※『しんぶん赤旗』2002年12月15日付
※※※『しんぶん赤旗』2002年6月4日付

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