血塗られたルートの先にあるものは(陸前五葉山洞泉駅~鳩ノ峰コース:岩手県)
不安だった夜でしたが、特にひどく眠れない夜というわけでもなく、具合もそれほど悪くなく、夜行バスが遠野駅に着きました。ふうたろうの旅の第一段階を乗り越えました。まずは大雑把に線移動しなければ始まりませんから。
懐かしい遠野駅…
などと思っている余裕はそれでもあまりなく、クソ寒いので遠野駅の待合室へ。
遠野駅は親切です。待ち時間が長いので、ストーブをつけてくれていて、不自由なく待てます。ありがたく、そこで諸々の着替えを済ませ、持ってきていたデニッシュロール4個を食い散らかしました。もちろん、ゴミはゴミ箱へ。
臨戦態勢で釜石線下りの7時50分発。これから洞泉駅に向かいます。
朝日が燦々と照っています。
しかし、遠野駅に着いた7時前に比べると雲の量が増えてきました。なんか妙にイヤな予感。
釜石線が東進しています。なんだかやっぱり胃の具合がおかしい。
うつらうつらしているうちに、上有住など、いくつかの駅に停まったことさえ気が付かないまま、洞泉駅到着。危うくここも寝過ごすところでした。アブネー…
今回の目的は昨日付でも明らかにしているように、陸前五葉山の撃破。日本300名山です。それを、マイカーに頼らず、自分の道でクリアするのです。
しかし、昨日などにおそらく雪が降っていたのでしょう、下界に近い林道でも雪がけっこうあって、若干歩きにくい。更に荷物が重い。加えて枝道も多すぎて解りにくいという大罠です。
そんな枝道を右往左往していると、地元の猟師のおっちゃんが通りかかって、地図を見ながら道を教えてくれました。
…が、それは、戻ってからまた入り直すルートでした。あとで判ったことですが、それは大松ルートというもののようです。大松ルートは倒木で通れないと、釜石市のホームページには書いてあります。
→五葉山-釜石市ホームページ
したがって、ふうたろうはそのまままっすぐ進みます。幸いGPSもありますから、もっとも正確なルートが解りますし。
しかし、猟師のおっちゃんたちの歩いていた道、血まみれの雪です。シカを仕留めたと言っていたので、その血しぶきでしょう。なんだかありがたくない門出ですなあ。
シカを乗せたソリみたいなのを引きずったあとがあります。既に雪は深くなっているので、わかんとアイゼンを履いて全力態勢。ピッケルももうスタンバイOKです。
しばらく遡上を続けると、その血痕が針葉樹林帯に消えていきます。ふうたろうはそのまま雪に埋もれた林道をまっすぐ進みます。
すぐに解る、踏み痕のありがたみ。たとえ血塗られていても。
土石流対策の施された堰堤の手前でヤヴにぶち当たります。そして、雪がこんもりと深いという。
しかし、この雪深いヤヴ道を歩く必要がなかったと気が付いたのはそれほど後のことではなかったという件。
道を進んでいくと、本格的に雪に覆われて、猛烈に歩きにくくなった林道になります。しかも、沢のプチ渡渉とかがあったり。これでアイゼンわかんが雪団子になるフラグが立ちました(滅
更に進んでいくと、右手が急坂斜面のところに出ます。いよいよここからその斜面を登って、尾根に上がる道になります。
実はあとでこれも判るのですが、ここは通行不能ルートです。ふうたろうはまたしてもウルトラヤブ漕ぎゾーンに迷い込むのでしょうか。
カメラのレンズを30度ほど上に傾けて撮影するとこれも平地に見えますか。とりあえず、雪の深さからは若干逃れられましたが、急坂のきつさは異常です。
そういえば、さっきの猟師のおっちゃん、四つんばいになって上がらないといけない、みたいなこと言ってたっけ。
やっと枝稜線に出ました。これから鳩ノ峰まで稜線歩きです。ただ、途中で一本横移動するようですが。
さっきの谷の道や急坂に比べると快適な稜線歩き。登山道は木の隙間があればすべてがそれです。
木が一部伐採されているところもあって、どうやらここは人の歩く道なのでしょう(もちろんここが通行不能だということを、この時のふうたろうは知らない)。
しかし、隣の稜線に斜面をトラバースして横移動する予定だった道は、雪と樹林帯に埋もれて解らなくなっていました。こうなったら、うっすらと地図上で尾根に見えるこの道まっすぐ先を直登するしかない。
そういえば、さっきの猟師のおっちゃん、「未だかつてここから五葉山に登ろうとした人はいない」と言っていましたっけ。なるほどねえ(棒読み)
直登尾根の雪はとても薄く、歩きやすいと言えば歩きやすい。しかし、標高800mくらいから少しずつ平坦になり、同時に雪も深くなってきます。
樹林のうっとうしさに辟易しつつも、日の光と雪と樹林が作る影絵はいつ見てもいい。それでも、登っているときに木の枝が身体に当たると、発狂しそうになるほど鬱陶しい。
地図に載っている方のルートと合流します。これはGoogleマップの地図の方でもちゃんと書いておこうと思います。
独り言じゃないけど独り言。Indexの一番右の欄の「地図」をクリック。
鳩ノ峰が近づいてくる標高900m付近。坂道は楽になりますが、雪の深さはいっそう凄いものになっていきます。樹林で風などによる圧雪もされにくいため、沈み込みも厳しいです。
何とか鳩ノ峰に到着です。ここで13時26分。洞泉駅を8時42分に出てから4時間44分が経ってしまいました。体力的にも少しずつ厳しくなってくる頃です。
ここからは普通のルートです。いや、普通の人も歩くルート、というべきでしょうか。一般的には赤坂峠という、洞泉駅のある釜石線とは、五葉山を挟んで反対側にあるところから登られるようです。
当然、ふうたろうは車とかタクシーとかは極力使わないので、どうしても、駅to駅コースなど、楽なコースを選んでしまうというか選ばざるをえないというか。
しばらくは緩やかな尾根を少しずつ南東方向に上がっていきます。天気も良くなってきていて、一安心ですが…
ウサギたち、動物先生の足跡も多数あります。…が、雪が深くて大変。
標高1000m付近にさしかかると、坂が突然キツくなります。更に、雪の深さはそれまでの膝下よりも深い、股下くらいまでのところさえあります。上り坂でずっとこれが続くとなると、速度はガタ落ち。今日中に行けるところがどこまでなのか推し量ることさえできなくなります。
案内板などがあったりすると若干安心するかも知れないけど、それは雪のない時期にこそ意味のある看板であり、今歩くアホのために設置されたものではありません。
デカい倒木とかが行く手を阻み始めると、もはやまたぎ状態。しぶとく登り続けるしかありません。
1093mの表示のあるあたりで件の急坂は終わります。とりあえず、そこまで来たら一安心。さっきみたいなおぞましい雪ヤヴゾーンはもうない(たぶん)ので。
それでも、ところどころ倒木やヤヴに悩まされる緩やかな尾根を、ダラダラと登ります。
もっと余裕のある日程であれば、もっと体力があれば、こういう雪の樹林も楽しく登れるのかも知れません。でも、ふうたろうは残念ながら、職業登山家ではありませんし、パトロンがいるわけでもありません。あくまでも、登山を趣味としている、しがないサラリーマンなのです。
ふうたろうなりに登れる山を。
ふうたろうのために登る山を。
そのために惜しむべきことは何もない。それが、出せる範囲のカネであり、払える限りの時間であり、使える限りの体力であるなら、それはすべて出し切るのが、ふうたろうの山。今ここで辛くても、その先にあるものを知っているから、登り続ける。空を見続けて。
…などと戯言を宣っている場合ではありませんな。
とにかく、標高1200mまで続くこの緩い登りの尾根。凄く緩く地図では見えても、この深い雪の中を歩くのはそれでも大変です。できるだけ樹林の近くを避け、雪が締まっている部分を歩くようにしないと、死にます。
等高線で1200mのところを過ぎた辺りから、再び坂が急になります。ここを越えると五葉山の肩ということになります。どうやら先が見えてきたようです。
しかし、今日の終わりも見えてきました。日が陰ってきています。
このくらいの雪道が一番快適です。沈まない道。くるぶしより上まで沈み始めると、辛いと感じるみたいです。
稜線の切れ間が見えてきました。そこから夕焼けになっている積雲が流れているのが見えました。
しかし、展望の前にはだかる細い低木のヤヴ。当然、沈み込みはキツいと。
ようやく手に入れた展望は、雲が多いながらも感動できるものでした。樹林のうっとうしさに負けているところもありますが、この雲間の夕日、ふうたろうは好きです。
もう少し早く登れていれば、と思ったりもするも、それはあとの祭です。
愛染山が見えます。五葉山の稜線は展望が素晴らしいようですね。
三陸海岸も見えているけど、なんだか雲が多くなってきて気分が重くなってきましたよ?
というわけで、五葉山山頂300mくらい手前のところのピーク付近で、ビバーク。石楠花(しゃくなげ)山荘まで行けば誰か居るだろうと思っていたのですが、そこまで気力と体力が持ちそうにないです。
ぜんざいを食います。
夜、1時間15分ルールの気分の悪さに堪え忍んでから、外を見ると、晴れていました。月夜に照らされた雪原と雪を被った樹林は、とても幻想的でした。
今日はこの夜を楽しむために登ってきた。
ふうたろうはそう思って、今日を締めます。
陸前五葉山山頂まで後一歩。雪道の中これだけ歩けたのは意外と健闘だと言いたい。
明日、天気がどうなるか解らないけど、今日は殆ど見られなかった展望を、望みたいと思います。
天気:晴れ時々くもり(岩手県遠野市・釜石市、移動中は含まない)