水の地獄(日高南部神威岳:北海道日高支庁)
空は晴れる気配全くなし。十勝側の電波を拾って携帯で天気予報を見ると、こともあろうに、気圧の谷が通過していくとかぬかしている始末です。やる気が失せます。しかも、明け方には死体遺棄のような気色の悪い夢を見たりとかするし(ちょうどこのころに死体遺棄の事件が大阪で起こっていますね)。
とりあえず、朝飯をあらゆる意味で受け付けないので、1リットル分持って上がっていた牛乳とコーンフレークをば。
ふうたろうのテントは、このガスの露を浴びまくって、ズタボロに濡れ倒していました。もうね、地獄ですよ、今日は。
さて、縦走路の入口はどこかな。確か、昨日登ってくるとき、左手に赤色のリボンが付いていたような気がしますが。
しかし、はっきり言って、これは人間が通る道ではありません。アトミックヤヴこぎゾーンです。しかも、GPSは右往左往して、どこを指しているのやらサッパリ解らんし。
それでいてこの猛烈なガススペシャル。おとなしく戻るべきだったと、ずっと後になって思うのだけど、なぜか通過を焦っています。
やっと目的の稜線を見つけたのは、若干ガスが薄くなってきた頃。
しかし、ガスが薄くなると、晴れ方は意外と速いものです。パッと視界が開けます。
中ノ岳の手前のピークに続きます。そのピークで、およそペテガリ岳までの4分の1に当たりますが、全然進みません。これはまずいなあ。
この稜線、たまに踏み跡みたいなものもありますが、基本的にはしっかりヤヴに覆われています。これは、冬に歩いた方が賢明かも知れませんなあ。
なためというか、木をカットしたものが残っています。元は歩かれた道だったのだろう…。
そして、ふうたろうに転換点が。
何と!眼鏡が木に吹っ飛ばされてしまいました。ヤブを漕いでいたら、眼鏡が木の枝にはじき飛ばされてどこかに行ってしまったのです。当然、視力が落ちているので、しかもこの保護色のようなヤブの中で、あの眼鏡が見つかるはずもありません。
しばらく進んでみましたが、眼鏡がない状態で進むのは不可能。撤退を決めます。
でもどこへ撤退するの?
眼鏡を失った瞬間、救助要請、なんて言葉も頭をよぎったけど、振り払いました。
しかし、このヤブをまた神威岳まで戻るのか?とてもではないが、それだけの体力と気力が残っていなかった。途中、ビバーク出来そうな場所もない。
ふうたろうはここで地獄への道を進むことになります。何と谷に下りてしまいました。
当然です。草付きの急な崖っぽいところに出くわしました。これ一回で済めばいいけど?
見かけ楽そうに見えるし、確かにこのあたりはそれでもまだ何とか下りられたけど、この先もそうとは限らない。
このガレのたまった平坦な場所、これが続く限りでは歩けるけど、その安堵感はたびたび打ち砕かれます。
高度感が解りにくいですが、この滝はかなり高いです。荷物を何度も落下させて、何とか軽身で草を掴みながら下りていきますが、いつまでこの状態が続くのか、いつまでこの程度の滝で済んでくれるのか、解ったものではありませんから…
この後、写真がありません。度重なる滝は、そのたびに険しさを増していきます。捕まるところもないゴルジュ状の滝が最後2~3個繋がっているところで、カメラをザックの中に、袋で口を縛って進んだものの、浸水して壊れました。GPSも滝壺に呑まれ、足もつかないほどの滝壺の深さに驚愕しながら必死で滝を下りました。
昨日のシュオマナイ川の二叉(左側と書いていた方)に分かれるところに出てきたのは、ほぼ日没頃。日没までには何とか滝を越えねば、と思っていたことだけは、何とか達成出来ました。しかし、視力が無く、更に暗闇にヘッドランプひとつで、巻き道すら探すことができず、沢をひたすら下り続けること4時間。廊下状(両側岩の崖で川底が深い状態のところ)の真っ黒な水にはまりながら、何と22時半に神威山荘に、命からがら到着です。
到着後、濡れたもの全てを乾かすため、特にカメラと携帯を乾かすため、火を付けました。寝袋も濡れたままでは寒くて中に入れないので、慌てて乾かします。そのため、寝たのは2時を回っていたかも知れません。
こうして、ふうたろうは何とか地獄から生還しました。それでも、カメラと携帯と眼鏡とGPS。これだけで20万円以上の損害です。無くした時計は、あの釜状の沢のところの河原に落ちていました。
次は、何とかこの神威山荘から下界に脱出を図る術を考えるのですが、どう考えても、誰か一般登山者に頼るしかありません。幸いこの夜、たくさんの登山者がいたので、誰かに頼み込むことができそうです。もっとも、それも明日にならないと、特に午後にならないと解らないことでしょうけど。
沢とヤブの地獄を思う存分味わった長い地獄の一日が終わりました。
天気:くもりのち晴れ、一時小雨ぱらつく(北海道日高支庁浦河郡浦河町・十勝支庁広尾郡大樹町)
ひゃー。生きてるだけでめっけもん(汗
すごい生命力だにゃー
>生命力
…どちらかというと、気力、かも知れませんな…
ふうたろうさんのことだからそれなりに大変ながらもスムーズに歩けていたのだろうなぁ、と思っていたらいきなり大変だったようで。。。メガネを落とされたのが大きいのでしょうが、GPSに頼る前に完璧とまでは言わないけどある程度地形図とコンパスで動けていたら、結果は違ったように思います。
北海道の山は皆さんのご報告を楽しませてもらっているだけですので、よくわからないのですが、ダニにはつかれないのですか?
ダニは気が付いたら手の上に乗っています。しかし、不思議と、噛みつかれないですね。
それから、GPSはどのくらい進んだか確認する程度で、同じような景色の繰り返しである所でしか使いません。不思議なんですけど、コンパスは殆ど役に立たないのに、何でみんなコンパスにこだわるんだろう、と思うんですよ。地図や周囲の地形や展望で、殆ど現在地は判ります。
上のコメント↑またまた匿名になっとりました(汗
ところでこの藪ゾーンは普通の人が通る登山道なんですか?
メガネ紛失って私の場合の老眼鏡紛失と匹敵してますかね。どっちもいやですね。
よくみえないっていうのはストレスたまって。
もっとも老眼鏡があっても地図が読めるとは限りませんが。自分の場合。。。(汗
夜10時半って、真っ暗闇を3時間以上ですか。。。
けがとかはしていないんですか?すりきずくらい?ほんとに無事でよかったです。ホッ。
北海道、日高山系はこれだからこわいんだ~山が深すぎて。
いや、このヤブゾーンは、普通の人は通りません。神威~ペテガリは、特に通らないんじゃないでしょうか。ペテガリからコイカクまではやる人もいるみたいですけど…。とにかく、雪でもないと、こんなところ絶対無理ですわ(泣
この山がしんどかったのは、日高山脈が急峻だったり深かったりしたせいではなく、交通アクセスが無くて、ふうたろうが焦ったせいです。おとなしく神威とペテガリは往復するか、ペテガリから縦走するようにしていれば、こうはならなかったんじゃないかと。
沢のかもしか山行は、もはや根性でしたね。眼鏡が無くて視力が失われているので、楽しくも何ともなかったし(滅 怪我は殆どしてませんよ。生きているのが不思議ですよね…
今更のコメントになりますが、北海道おつかれ様でした。
とんでもない状況になっちゃったんですね。
大変レベル、損害レベルも自分とは比べられない内容でビックリ。
ヤブで落とし物をするのはホントに地獄です。
ふうたろうさんが神威~ペテガリ縦走できたなら自分も跡を辿らせてもらおうとも思ってたりもしましたが、素直にピストンするしかないですね。
本当にお疲れ様でした。
ほんと、この損害はデカかったです(涙 っていうか、もう随分昔のような気もするんですが、まだちょうど1ヶ月前ですか。殆どの人にとっては最近のレベルですよね。
神威~ペテガリは、いちばんヤブが大変なルートかも知れません。ペテガリからカムエクは、どこかで縦走している話を聞きますから。ペテガリは、雪の時期にでも東尾根を攻めるくらいしか、あとは思いつきませんわ・・・