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風前の灯火(一切経山遭難【東大巓~酸ヶ平避難小屋コース】:福島県)

2013年 3月 10日

 夜中は風は強かったようですが、非常に快適に眠れました。いつもの胃ムカムカ症候群もないし、これほど快調の日は今年に入って何日あったか。ただ、朝飯に対する食欲はそんなにあるわけでもなく、このデカいひよこ豆のカレーを半分しか食えませんでした。


 低気圧が北東北から北海道を中心に通過する予定で、日本列島全体を寒冷前線がなめ回していくそうですが…まだ天気は安定。でも、できれば昼には一切経山は通過したい。


 実は若干の寝坊でした。もう1時間早く起きていれば。出発6時27分。


 困ったことに、東大巓を過ぎてから昭元山、烏帽子山、ニセ烏帽子山と連続するピークは、今までの吾妻連峰らしくなく坂が急です。思いの外雪道で時間を取られます。


 太陽はまだまだ健在。行こう!


 あの真正面の山が昭元山。


 すっかり樹氷の氷は解け落ちています。


 雪がなければそれほどでもないコースだし、ふうたろうの足であれば、日帰りデイパックで一気に縦走しきれるレベルのコースかも知れません。ただし、最終バス次第ですがね。
 でも、今は雪があり、バスもない時期。


 西の方には薄雲がウロウロしていますが…。まだ大丈夫。


 昭元山山頂。ここでエネルギーを補給しておきます。こまめに糖質を取っておかないとバテます。
 いや、今日もいい眺めですわ。


 これから向かう東吾妻山塊です。


 そして、次のピークはあの烏帽子山。なんだか禿げたような山ですが、大丈夫ですかね、踏み抜きとか。


 …!!
 下層雲が突然わき起こってきました。ちょっと、天気の崩れ、早くないか?


 …いや、まだ何とか耐えている。行こう。どちらにしても、進む以外に下る方法もない。


 昨日に比べると薄雲がウロウロします。黄砂のようなものも飛んでいます。空全体が鬱空です。でも、先週の箱根山に登っている時を思うと、今ここを歩けていることがどれだけ幸せかをつくづく感じます。


 昭元山と烏帽子山の鞍部。ルートは上手く探しましょう。雪道は基本尾根伝いで。


 !!!
 ふと後ろを振り向くと、悪魔のような黒雲が昭元山の方から近づいていました。
 今、8時…。


 これは、この天気の急変はただ者ではないかも知れない。


 空の黒さが尋常じゃない。


 しかも、彼方までその黒さが続いている。これは降られるな。気温高いから雨かも知れない。


 ともあれ、先を急ぎましょうか。


 とはいえ、この烏帽子山、低木帯の積雪地で、ヅボッで足を取られます。


 山頂付近…と言いたいけど、ここ、既にけっこう風が強いかも。


 次はニセ烏帽子山。なんだか、今までの順風満帆は幻のようになってきたぞ…


 …雨交じりの雪が降り始めました。寒冷前線の通過だから、致し方あるまい。こうなったら、いつもの極悪コースで突き進むしかないと。


 下界の方は晴れているようにも見えますが、後で判るようにそれは罠です。


 そして、ニセ烏帽子山のピーク付近まで来ると、一帯はガスに覆われました。山頂が広いので、正確な位置がつかめません。


 方位磁石必携。しかし、しばしば方位磁石は狂ってくれます。恐らく中に気泡が入ったり持ち方が知らず知らず斜めになっていたりするのでしょうね。とにかく、方角を失わぬよう。


 いつの間にかニセ烏帽子山を通り過ぎてしまったようです。いや、通り過ぎて正解なのですが、自分の位置が把握できないというのはとかく気味が悪いものです。


 ところで、さっきから雪が降っています。気温ががくっと下がっています。8時前、地面の雪質はべとべとで、壊れたわかんにこびりついていました。でも、今は…


 木の上に乗っていた雪がさっきまでものすごい勢いで溶けていたのですが、それが再びつららになって凍っています。寒冷前線が通過したので気温が一気に下がったのです。


 しかし、ふうたろうは、そういう気温の低下(数時間で30℃下がるとか)は計算ずくなので、左うちわでばく進します。30分前にカンカン照りでそのあと吹雪になっても驚きません。
 オオシラビソの幹に開いた穴を見て、虫と木と鳥の関係に思いをはせる余裕があるほどですから。


 家形山の山頂付近は樹林帯で、しかも平らです。さらに曇っているので、方位磁石必携。自分が進む方向を失うと、また変なところに誘われます。


 何か、目印らしいところが出てきました。あれが1877ピークですかね。


 この辺りは雪がありませんね。吹き飛ばされたのか、解けたのか。


 おもしろい光景です。座って撮ったりすると、まったく違う世界に見えるのですよ。


 さて、ガスっている中で家形山から五色沼方面に下り道を取るときがちょっと厄介です。1877ピークからであれば、真南に進めば問題ないはずですが、ここは1877ピークの位置ではどうやらなかったようですな。


 吾妻連峰全体に言えることだと思いますが、天候が悪くなるととても迷いやすい山だと思います。とりとめのない地形に道があります。


 さて、ちょっと下りる方向を間違えてしまったので、五色沼方面に軌道修正。しかし、風強い…


 ここは五色沼の西岸。しかし、濃いガスと強い風が…


 五色沼の側に少し入って歩き、風をよけようと思いますが、あまり変わりません。


 避難小屋は一切経山の向こう側。それに、今日中に下山しないと明日は仕事。参った。何とか一切経山を抜けないと話にならない…


 しかし、猛烈な地吹雪でホワイトアウトしています。両隣の樹林帯がなければどうなるか…。


 こうなるのです。
 一切経山直下では雪がやみ、雲が晴れ、日が差してきました。しかし風は爆撃を食らっているようなくらい強く、直径10cmの岩を1mほど真上に放り上げると、30度くらいの急坂をバウンドしながら駆け上がっていきます。


 必死で地面や柵のロープにしがみつきながら一切経山の山頂付近まで来ましたが、三角点のあるところにはたどり着けません。


 10mくらいのところにあるのに、向かえません。不意に外した手袋が風に舞い、この標の周りを回転しています。見たことがない光景。


 100リットルのザックを持っていると、それが風にあおられて一緒に飛ばされそうになります。この写真は、ザックを捨てて避難小屋に向かおうとしているときに撮った写真です。


 一切経山から酸ヶ平(すがだいら)避難小屋までの道で、稜線からその西側へそれていくと、風が少し収まります。何とか風に殺されることだけは避けられたか…


 あとは酸ヶ平避難小屋で一晩やり過ごし、風が収まったらあのザックを取りに行って、帰る。今日はもう帰ることはできない。


 …しかし悲劇はここからでした。小屋の扉が凍って開かない。非常用の窓も同じく凍って開かない。窓を破ろうにも頑丈で不可能。この避難小屋はあまりにも危険すぎます。いや、本当にまずい。ふうたろうは山頂ちかくのところにテントや寝袋なども全部置いてきてしまったのだから。


 程なくして夜になります。雪洞を掘ろうにも雪が固くて掘れず、救助要請しようにも携帯がつながらず、絶体絶命。
 …そうだ、踏み抜きだ。踏み抜きの穴の中に入れば、風くらいはしのげる…かも。
 翌朝の夜明けまで、12時間、強風と低温の中、さらに飲まず食わず、一睡もせず、耐え抜けるのか?
 五色沼のところで停滞を決めるべきだったと、今更後悔しても始まらない。今やるべきことは、明日の朝まで必ず耐え抜くことだけです。しかし、頭をよぎるのは「低体温症による死」。
 長い夜の戦いになりそうです。


天気:晴れ時々雪、暴風を伴い強く降る(福島県福島市・耶麻郡猪苗代町・山形県米沢市)

  1. みゃーみ
    3月 16th, 2013 at 21:53 | #1

    写真をみている限りでは晴天でとても気持ち良さげ雰囲気で、強風が吹き荒れているとは思えないです。

    やはり寝たらいけないんですか、凍死してしまうんですか。

    12時間もよく頑張りました。死んだらおしまいだもんね。

    こんな場所、冬に縦走なんかしてたらだめだよ~。逃げ場に入れないとかあるんだね。

    やっぱ、山って最悪のことを考えながら行動しなきゃいけないってことかな。。。

  2. ふうたろう
    3月 17th, 2013 at 23:35 | #2

     こんな場所、冬に縦走するのはおいらにとってはずっと当たり前でしたぜ。1月の余市岳の方が、本来的にはかなりキツいはずだけど、爆弾みたいな低気圧が来たわけでもないし、大丈夫だった(そのとき東京は爆弾低気圧でけちょんけちょんだったらしいけど)。
     冬とか春とか夏とかじゃなくて、天気と相談しながら来いってことね。さすがにあの日本海低気圧はキツかったです。あんなに発達するとは…。気温の変化も尋常ではなかったし。

     結果として、大きな代償を払うハメになりましたわ(滅滅滅

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