生きている実感(一切経山リタイア:福島県)
夜通し寒さと空腹と渇きに耐えながら、頭の中はほとんど空っぽでした。とりあえず朝まで耐えることしか頭になかったのです。
でも、このまま耐えずに絶えたらどうだろう、毎日胃腸の具合が悪くて、山にいるとき以外に生きがいを感じている気もしなくて、人間づきあいが上手なわけでもない、そんな人生なら…。
実は、そんな思いが頭の中をよぎらなかったわけでもない。だから、きっとあのまま眠っていたら、そのまま体温が下がって…
でも、できませんでした。やはり心の片隅に浮かんでくる人々がいました。それが、信じている人々を意味するのか、信じ「たい」人々を意味するのか、今も曖昧ですが。驚くべきことに、朝まで耐えてしまいました。
空が明るくなってきたら、荷物を取りに行こうと思ったけど、風はまったく収まっていなかったので、そのまま下山です。高湯温泉まで歩けば、何とかなる。
ふうたろうは、ひとまず東小富士のある方角へ歩いて行きます。
雪に閉ざされたビジターセンターがあります。ここは観光シーズンになれば見違えるようになるのでしょう。でも今は廃墟よりも寂しい世界です。そして、飲まず食わず一睡もせずのふうたろうは、気力で歩くのが精一杯。
磐梯吾妻スカイラインは当然冬季閉鎖。風も強く、雪と冷気が顔を刺すように吹き付けてきます。
辛い。どこまで山は鬼教師なんだろう。でも、その鬼のしごきに耐えているふうたろうがここにいる。その鬼のしごきをしてもなお、山が嫌いだとは一瞬たりとも思わない。それが山の本性。それが山のもう一つの顔。
スカイラインを開通させるため、重機が持ち込まれて除雪作業の準備がなされています。そして、程なくして下界から作業員たちが出勤してきます。ふうたろう、力なく挨拶をして、ふらつきながら下降を続けます。
- 山は常に美しい
- 山は常に厳しい
- 山は常に博愛
- 山は常に弁証法
- 山では常に死んではならない
…山が、そう言っているような気がしましてね。
でも、今は水と食べ物、…が、ほしい。
時折吹雪く道路を延々下って3時間あまり、高湯温泉の端辺りまで来ましたか。でも、店や温泉旅館などの開いている雰囲気は全くない。さすがにここで果てることはないけど、体力は限界です。
そして最初に見えた人の気配がある建設物。ハイランドホテル花月、だったかな。バイオハザード(CAPCOMのゲーム)のゾンビのように近づいていって、とりあえず身体を温めるために、温泉に入れてもらえるように頼み込むつもりです。…が、別に何ら苦労せず、入れてもらうことができました。
飲まず食わずのふうたろう、一本200円のリンゴジュースを飲んで生きていることを実感します。
そして、湯船に浸かりましたが、湯船の中で寒気がしました。きっと、熱があるに違いない。しかも、38℃クラスであるかも知れない。もちろん、体温計はないので知る術もないけど。
10時半の送迎バスに乗って福島駅に行く予定でした。しかし、風呂から上がったらめまいがして、ちゃんと歩けませんがな。ものの見事に乗り遅れ、タクシーを呼び、食べ物を買い込み、待ちます。
花月の駐車場から福島市が一望できます。ああ、天気いいね…。低気圧と寒気が抜けてきたから…。
ホテル花月の本館とフロントの隙間に一切経山、左奥には安達太良山の山塊が見えますか。
…今回は完全に敗北しましたね。
タクシーの運ちゃんといつものように話をしながら、福島駅に下りてきました。無事に下りてきた今だから言えることだけど、この安堵感も含めて、やっぱり来てよかったと思います。そりゃあ、死ぬ思いはしましたけども。そして同時に、救助要請の電話がかからなくて、むしろよかったとも思います。迷惑がかかったのは職場くらいでまだ済んだのだから(職場の人には悪いけど…)。
昼飯を駅ビルの中で買って、一心不乱に食べていたら、年配の女性二人がそのふうたろうの姿を見ていました。やはり、飢えから逃れようとする生の営みは並大抵ではないのだなと思いますが。そして、小一時間、山で起こったことを話していました。
話を聞けば、さっきのタクシーの運転手も、彼女らも、この市街地でさえ雪が降り、立っていられないほどの風だったと言っていました。
…それであの山頂が無事なはずはありませんよね。
ふうたろうは15時28分のバス(48分だと思っていたのでヤヴァかった)に乗る予定でした。そのため、14時46分、この駅前の花時計で黙祷を捧げることができました。今日は出勤している予定でしたが、思いがけない事故で被災地に直接黙祷を捧げることができましたね。
ともあれ、生きていなければ何もできない。生きて、いるだけで十分です。
バスで帰宅しますが、猛烈な疲れで、池袋でバスを降りたあとの東武東上線が辛いのなんの。帰宅ラッシュと重なるので、都会の電車は本当に乗りたくありません。
風を甘く見ていたふうたろうの末路は、荷物のほとんどを失うだけで済みました。しかし、損失額は20万円程度になったはず。あの日高山脈の神威岳でひどい目に遭ったときと同じようなものです。急いては事をし損じる、ということわざが合います。もっと早めに、安全地帯で避難を決めるべきでした。どうせ欠勤しなければならない結果は同じだったのだから。しかし、2度目はないようにしないと、学ばないマヌケということになります。
#34西吾妻山2回目クリア。
一切経山は改めて挑戦することにし、今回のクリア(登頂)はなかったこととします。
天気:晴れ、朝のうち雪で暴風を伴う(福島県福島市)
無事で何よりでした。
雪山の難易度の高い事をやっていますね。
問題は風ですよね。でも良く一夜を耐えましたね。
テントやシュラフや物は又頑張って働いて、購入できますしね。
命があるという事はありがたい亊だと思います。
明日は我が身なので、お互いに気を付けて山を歩きましょうね。
はじめまして
はるきちと申します。
いつもこっそりふうたろうさんの山行記録を拝見しております。
まだまだ初心者なのでいろんな山に行かれてるのでとても参考になります。
今回、日記をドキドキしながら読んでしまいました。本当に無事で良かったです。
自分も安全第一で登りたいと思います。
これからも日記楽しみにしています。
chiakiさん、これを、「雪山の難易度が高い」と言っていいのでしょうか。単純に、社会のしがらみや虚栄心に負けただけのことのような気がします。実に無念です。
実は、風の怖さ、まったく知らなかったわけではありません。2010年5月3日に大雪山旭岳に登ったときもものすごい風でした。立っていられないほど。やはり、あれを思い出すべきでした。
ザックなどは回収しに行こうと思います。もちろん、スカイラインが開通してからになるでしょうが。ゴミをあそこに置いたままにしておくわけにも行きませんから…たぶん、そのまま残っていると思います。
以前日高山脈でひどい目に遭ったときもそうでしたが、生きていれば必ずまたすぐに山に向かいたくなります。一刻も早く、山に戻りたいです。一段レベルアップして。
初めまして。長い長い日記におつきあいいただいてありがとうございます。
初心者相手にしては、変な道をウロウロして、早出残業当たり前、吹雪の中を涼しい顔、というスパルタ日記ではないでしょうか(汗 これでもかなり楽しんで毎回を過ごしていますが、同じように楽しんでいる人を近くに見かけることはありません…
しかし、今回の登山は本当に危険でした。辛い、怖い、というよりも、危険だった、という言葉が相応しいです。
正直、あの一夜は、スキーをやっているような人の服装だと、日付が変わる前にだめだったのではないかと思います。僕もあと日の出が1時間遅かったらかなり危なかったと思います。
安全第一。
誰しもこれを心に刻んでいるはずですが、その安全は不意に崩れるものだというのが、今回痛感させられました。
何が起こってもいい、という覚悟を、僕は持ちたいと思います。
生きている、それが一番。
そうか、いろんな人が頭に浮かんできたんだね。
人(特に親兄弟)を悲しませなくてよかったよかった。
あの日は鎌倉でさえ、すごい風でした。。。
また山でお会いしましょう~。これからもよろしく~。
色んな人が頭に浮かんだけど、浮かばなかったら、「もういいかな…」になってたとも思う。不謹慎だけど。
正直、一週間前の箱根山でこの状況だったら、恐らく死んでた。気力が持たなかったと思う。1週間経って、少し回復してたから、持ったんだと思う。
下界に下りてきてから、タクシーの運ちゃんや二本松の婆ちゃんたちや、東京の職場の同僚などに話を聞いて、本当にヤバかったんだと知りました。日本の気候はこんなに荒かったか?と、最近思うことが多くなりました。
はじめまして^^
遭難事故検索でお邪魔しました
一切経山は大好きなお山で何度か登って吾妻の魔女に『五色沼(魔女の瞳)』に逢いに行きます
今年の震災の日にこのような生死を分ける山行があったのだと大変驚きましたが
ふうたろう様の文章・感性が何故か“面白い”ので一気に拝読させて頂きました
ザックも回収して自己完結されているご様子は只者じゃありませんね^^
そしてこのような記事は大変参考になりますね
これからも訪問させて頂きます^^
papicomさん、初めまして。
おっしゃるとおり、あの遭難事故は大変でした。手袋が風に飛ばされて失われそうになったり、実は小指がその後数週間感覚なくなっていたりと、何かとありました。山を愛するものとして恥ずべき醜態ですが、やってしまったものは仕方ありません。大体自分の中で理由は解っているつもりです…
ところで、吾妻連峰には、この3月9日前後にしか行ったことがなく(4月9日も行きましたが似たようなもので…)、氷に閉ざされていない景色というものを知りません。五色沼が「魔女の瞳」と呼ばれていることはもちろん存じませんでしたが、その時期のその「瞳」は鮮度の落ちたイワシの目のように、白く濁って(凍って)いました(汗
おもしろいと言われるのは、最大の褒め言葉です。ただ、”面白い”というのは…?
どうぞ、よろしくお願いします。
早速のお返事ありがとうございます^^
面白いの表現は言葉足らずでしたね
気持ちの表現や描写が何故か笑えるんですよね~
ユーモアのセンスがあるのではないでしょうか
生死の境にユーモアが浮かぶ!そんな生き方が望みですから~^^
『魔女の瞳』に是非逢いに来てくださいね
YAHOOブログはログインしないと見れないかな~
宜しかったら見てくださいね
http://blogs.yahoo.co.jp/papicom109/11065146.html
確かに、最近は登りながらネタを考えていることがあります。ただ山に登っただけの記録であれば、ガイドブックや多くの人のブログ・HPにあると思います。同じことをやっていても、自分で書いていてもつまらないのではないかと思うので、特色を出すことにしています。また、長いので、飽きないようにもしなければなりません。
一つは、おっしゃるとおり、表現方法でしょうか。わざとらしいくらい顔文字や擬音語・擬態語を多用し、ひと呼吸置く。
一つは、登山の記録に「なぜ」を加えること。そこの地形や植物、化学や物理現象など、解ることは書く。
一つは、登山前、下山後の記録も加えること。山を取り巻く里の風景、政治・経済なども、書く。
政治・経済のことも書けば変なコメントをしてくるのもたまによってきますが、仕方ないことですね。
ヤフーブログは、管理者権限で記事投稿や設定変更などをするときにログインが必要でしょうけど、外から見る分には大丈夫ですよ。現に、残雪期の魔女の瞳の記事を読むことができましたから( ̄▽ ̄)