冷めよ地球、燃えよ愛
今日は一日、化学物質と戯れました。そして、帰りの電車でも化学にふれていました。夏の到来と同時に、バケキチの火もつき始めました。化学に興味のない人は、今日は見ない方がいいかもしれません。
農薬の標準液を作りました。10mlのアセトンに10mgの農薬を溶かします(10ppm:1000mg/lに相当)。
農薬と言っても形も色も性質も、全部違います。
左から、キノメチオネート、クロロニトロフェン。
同じく左から、クロフェンテジン、ジエトフェンカルブ。
このクロフェンテジンの色は、一度見たら忘れられません。有機塩素化合物です。
固体だけじゃありません。液体だってあります。
プレチラクロール(左)は液体です。10mg量りとるの、大変なのです。
イソプロチオラン(右)はちょっと大きめの結晶です。
最後に、フロアジナム。これも黄色です。
実際は色のある農薬は少なく、白い粉末だったり塊(結晶)だったりするのがほとんどです。ここに挙げた農薬は7種類ですが、実際はこのほかに、20種類の農薬を量りとっています。
今日は化学三昧。いつまでも楽しんでいます。
帰り、屋久島の地図が欠けていた分を買うついでに、『現代化学』(東京化学同人)の8月号を買って読みました。トランス脂肪酸(平たく言うと体に良くないもの)や免疫、地球温暖化を物理化学(熱化学)から見たものなど、いろいろな論文があったので、ネコにマタタビです。
濃密なので、読んだのは最初の20ページまで。その間に、二つ、おもしろいのがありました。一つは、前述の「地球温暖化現象に学ぶ物理化学の基礎」です。
物理化学は、熱力学と量子力学を使って化学をいじる学問といえばいいのでしょうか。電磁波とかPV=nRTという式などが出てきます。僕は何度も挫折しましたが、おもしろい学問です。環境問題とリンクするなら、なおのことです。おもしろいとは、そういう意味です。
結果から述べると、著者は、二酸化炭素だけがなぜ地球温暖化の現象として注目されるのかということを述べたいようです。…というのは、
著者(p14-18)の疑問
- どうして、水よりも二酸化炭素が温暖化現象の原因として注目されるのだろうか?
- どうして、熱(燃焼熱:ふうたろう註)よりも二酸化炭素が温暖化現象として注目されるのだろうか?
と、著者が書いているからです。
地球温暖化の原因とされている二酸化炭素は、太陽から降り注ぐ赤外線を吸収し、地表に一部、再び放射します。これを温室効果といいます。この効果は、二酸化炭素以外にも、メタンや窒素酸化物、フロン、水など、極性(電気的な偏り)を持つ分子ならあると著者は述べています。なるほど。
ところで、筆者は、水が大気中に占める割合を0~3%と述べています(16ページ)。二酸化炭素はそれよりも遙かに少ない0.04%だと。それで、一つ目のような疑問を投げかけています。
また、熱は、太陽から降り注ぐものだけではなく、人が物を燃やしても発生します。これを燃焼熱(「ΔH」と書いて、発熱する場合にはマイナスになります)といいます。この熱は、炭素やその化合物(石油もそうです)を燃やせば、出ます。そして、二酸化炭素も出ます。
筆者は、そこでこう述べています。
著者(p14-18)
(略)二酸化炭素が赤外線を吸収することによって間接的に大気を暖めるエネルギーと、熱で直接的に大気を暖めるエネルギーでは、どちらが多いのだろうか?(略)1モル(12g)の炭素が燃えたときに放出される熱エネルギーは、次式の標準反応エンタルピーΔHから、
C+O2→CO2 ΔH=-393.5kJ一方、1モルの二酸化炭素※が地表から(略)の赤外線を吸収したときのエネルギーを見積もってみると、
E=NAhν
=(6.022×1023)×(6.626×10-34)×(670cm-1×3.0×1010)=8.0kJ※※となる。(略)酸化による熱エネルギーよりも2桁も小さい。確かに、温室の中にドライアイスを置いて二酸化炭素を増やしただけでは、室温の温度は下がることはあっても上昇することはほとんどない。
引用おわり
専門でない僕でも、この著者の疑問自体に、疑問に思うところがあります。
量子化学の専門家を捕まえて何ですが、著者の疑問の一つ目に対して言えば、水が飽和蒸気圧を超えて気体になることはありません。つまり、著者の述べている3%よりも多くなることはありません。これが、二酸化炭素が無限に増え続けられる可能性を持っていることと違う点です※※※。なぜ著者はこう考えなかったのでしょうか。
二つめの長い式は、既に、比較を誤っています。ΔH(燃焼熱)は、物質量(モル)と比例しますが、大気中にある二酸化炭素の赤外線吸収量は、物質量と当時に光(赤外線)の量とも比例します。つまり、炭素(C)が燃えたときのエネルギーと二酸化炭素の温室効果を比較すること自体が間違っていると考えられます。
もう一つは、とてもいいコラムでした。20ページの『セキララかがく 教育できること?』(白木賢太郎)です。
白木賢太郎氏(p.20)
子供がみそ汁をこぼしたとき、親はいろいろな反応をする。(略)しかし、みそ汁をこぼした子供を叱ってはいけない。ここが肝だが、注意も不要である。
みそ汁をこぼしたことを叱る暇があれば、さっさと拭いてやり、ピーマンや酢の物なんかを残さず食べることを褒めて、頭をガシガシとなでてやればいい。
(略)
…子供にとって、今の子供時代には楽しさと喜びがたくさんある。もちろん大人になったら、また大人の生き方がある。だから、(今からこういう経験をしておくと)将来きっと役に立つからなどと言わずに、今日は何をして楽しかったのかを聞くべきである。
この二つ(略)から学んだ考え方は、教育にも通じると思う。
(略)
…先生が自分のささやかな成功例を思い出して、学生をその通りにやらせようと気を揉むのはよくない。着実に進めるのが好きな学生もいるし、一足跳びにやると抜群にいい学生もいる。判断が速い学生もいるし、集中力がない学生もいる。iPodを聞きながらでなければ論文を読めない学生もいる。5分おきにメールをチェックしないと気が済まない学生もいる。それでいいのである。
教育できないこと、教育しようと思わなくていいことがたくさんある。みそ汁をこぼしたことを叱るような1回を、いわば「愛している」と言う1回に変えるべきである。(略)何かを見つけ出して毎日50回も不満を言う人で世の中があふれている気がするが、それだけの注意力と饒舌な口があれば、毎日50回も「愛している」と言うことができるだろう。(以後略)引用おわり
すばらしい。すばらしすぎます。僕が何かを言うまでもありません。「みんなちがってみんないい」という言葉を思い出します。こうして育てられた子どもたちは、自己肯定感に溢れていくことでしょう。僕も見習わなければ。
化学にも、山にも愛情にも熱い夏にしたいですね。今年こそは。
天気:くもりのち時々晴れ(東京都板橋区・豊島区・茨城県取手市)
※1モルの炭素(12g)が燃えると、1モルの二酸化炭素ができます。著者が二酸化炭素を1モルで計算しているのはこのためです。
※※式の意味を理解する必要は特にありません。しかし、それぞれの数値には、根拠があり、正しいものです。数字のプラスマイナスは、この際気にしないでください。
※※※二酸化炭素にも、水と同じように、飽和蒸気圧というものがあります。しかし、僕たちが暮らしている環境では、その飽和を考慮する必要は、まずありません。