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登山家のるつぼ(金峰山・瑞牆山:長野県・山梨県)

2007年 11月 25日

※記録11月26日

 山を甘く見ていた僕の、悲惨な一日が終わって最終日の25日。最後の宿泊客にぎわう金峰山小屋の活動が、おそらく僕の起床時刻である4時に始まりました。
 昨日、西沢渓谷から金峰山まで一日で歩いてきた人は、僕のがさがさする音にもかかわらずよく眠っていました。あの凶悪ルートを戸渡尾根付きで踏破するなんて、ありえない。頭痛がするとかいっていたけど、ある意味当たり前かも。
 僕の起床を皮切りにみんな起き始めました。釣られて起きる山小屋の人々です。
 昨日、甲武信ヶ岳から同じルートを歩いていた、僕よりも少し年上の男性も自炊でした。アルファ米やら缶詰やら、色々なツールが出てきてドラえもんのポケットのようです。つまり、用意周到であるということ。僕のこの餅入りぜんざいと昨日の残りの米のセットは、ビタミン不足の典型です。しかも、大きな砂粒が入っていて…。
 でも、美味かった。ぜんざいは定番メニュー入りするかもしれません。


 小屋の6時の朝食前。まだ誰も下りてきていません。夜も明けてませんからね…。
 離れにあるトイレで極寒の用を足して、しばらくゆっくり。もう、かもしか山行はいいです。


 昨日は疲れすぎていて考えられなかったけど、やはり朝焼けを見るというのは、ぜんざいを食べること以上に山の定番です。20kgのザックを背中にくっつけて、鈍歩。それでも、金峰山山頂の朝焼けはその苦労に見合うはずです。


 1秒ごとに光の量が激変するこの時間帯。五丈岩の神社は太陽の光を真正面から受け止めます。


 富士山。1000m以上まだ高い山。真っ先に存在感を示します。


 月が沈んでいく北西には八ヶ岳。東から奥秩父の山をまたいで入り込む光が八ヶ岳にも光を与えています。


 いよいよ夜明け。今日はずっとこの太陽と一緒です。おはよう。


 そうそう、みんな考えることは同じです。ここまで来て朝日を見ないで去るのはあまりにもさみしい。僕ら(ドラえもんのポケットを持っていた人も含めて)よりずっと先に小屋を出ていた若いカップルはここでメシを食べていたようです。


 昨日、満身創痍で登り切った金峰山山頂。南南東に向いた標がやっと祝福してくれました。
 そして、さっきのカップルにシャッターを押してあげる気力も戻っていました。何せ僕は、この岩場を駆け回っていたもんですから。


 カメラのおっちゃん。富士山を撮り続けているみたいです。カメラのおっちゃんのパパラッチみたいな僕。懸命にシャッターを切る姿に後光が差していました。


 山頂をあとにします。これから、左(南側)崖っぷちの尾根を大日岩方面に下っていきます。


 ちょっと歩けば見上げるほどの五丈岩。険しいはずなのに疲れ知らず。もう大丈夫です。


 金峰山の影が落ちる山梨県・長野県の人里。八ヶ岳山麓に住む人たちは毎朝毎晩、この山々の向こうに、昇り、そして沈む日を見ているのでしょうか。


 すっかり夜も明けた7時。富士山その他、たくさんの山々が顔を出し始めました。下界はちょっと煙霧がかかっていますね。


 高山植物には霜の花。-11℃の世界。


 岩の隙間から富士山が威厳を持って見ています。さあ、最後の瑞牆山(みずがきやま)を目指せ!


 森林限界よりも下になると、樹林は突然鬱蒼としてきます。地面が凍っている上に、木の根や斜面が危ない。それでも、昨日より明るい森林で、まだずっと穏和です。


 大日岩です。写真を撮っていたのと、荷物が重いのと、靴が当たって痛いのと、コースタイムよりも30分ほど遅れました。靴は大きな課題です。これでは今後の山登りをうまく進めることが出来ません。


 大日小屋です。昨日、ここまで来る予定だったのですが、山頂から歩いてきて、改めて無理しなくて良かったと思いました。真っ暗になっていたでしょうから。それに、これから出会うオプションの殆どを失うことにもなります。
 大日小屋は無人小屋ですが、維持費は払わなくてはならないようです(当たり前)。大事にしよう、避難小屋。


 大日小屋から富士見平に下りる道。だんだんミズナラなどの落葉広葉樹が増えてきました。広い道で、やや急で、暖かい道。でも、荷物は重いし足も痛い。瑞牆山はほぼ空荷で登るので、富士見平までもう少しの我慢です。


 富士見平です。瑞牆山に登ろうとする人々でごった返します。僕はゆっくり、ここでラーメンを作って、昼飯です。時刻9時半過ぎ。


 瑞牆山と飯森山(「めしもり」か「いいもり」か不明)との間にある谷川。川が凍っているのを見るのは初めてです。神秘的。


 瑞牆山への取り付きです。下山客が大渋滞。僕は登りで優先させてくれました。みんなありがとう。そして、僕の顔を覚えてくれていた人も何人かいてくれました。声かけてくれてありがとう。


 目を疑いたくなるのですが、これ、何?岩を木で支えているのですか?たぶん、姉歯元建築士もビックリの構造です。


 今日の青空は、昨日よりもずっと深い青をしています。今日の僕の顔は、一転真っ赤になります。日焼けで。


 瑞牆山特有の花崗岩(かこうがん)岩峰。いよいよ山頂近し。浮き足だって先を急いでしまいます。


 新しく梯子のかかったところを行くと、西側の展望がよく見える場所に立てます。こんなところ、よく登ってきたと思います。


 瑞牆山はそのすべてが岩です。一緒に登ってきた、福井県から来たというおっちゃんは、「崩れて、岩だけが残ってこういう地形が出来たんだよ。」と言っていました。背後では、「地震が起こったら…」などという人も。


 登山家でごった返す瑞牆山。登山家のるつぼです。花崗岩が出来るような、登山家の深成岩(しんせいがん)。みんな都市で無定型になっていても、山では結晶。これぞ山の醍醐味です。


 下り道、また「耐震偽装」がありました。今度は柿?何のシャレでしょうか?


 昨日の夜一緒に小屋で話していた大阪の夫婦と、この先韮崎(にらさき)駅まで一緒に過ごします。富士見平から瑞牆山荘まで、広葉樹と落葉松の混合樹林の下を、落ち葉の絨毯でもてなされながら歩きます。


 雲取山のサオラ峠を思い出します。気持ちいいなぁ。


 大きな木。広い樹林からすればほんの小さな木なんだろうけど、力強いです。


 背丈の低い笹の道。褐変反応を済ませた落ち葉の茶色に、まだ葉緑素の残った笹の葉。足が痛いので、舞うように歩くわけにはいかないけど、気持ちいい。


 落ち葉の絨毯はそのまま登山口(下山口)まで続きます。西に傾いた太陽とただでさえ高い木の大きな影。瑞牆山山麓の冬景色は、都会よりも一足先です。


 瑞牆山荘の登山口。52時間の山ごもりが終わりました。
 このあたりの木には、なぜかヤドリギがたくさん。瑞牆山荘があって、エサがあって…?鳥がいるのでしょうか。ずっと歩いてきたけど、ヤドリギはこの辺にしかありませんでした。
 それより、もっと間近で見せて!


 山梨峡北交通バスは、今年最後の運行日を迎えています。運転手さんが快活な男性で、僕と大阪の夫婦3人の合計4人で、増富温泉までずっと話していました。
 運転手さんは語ります。山登りをする人のこと、ゴミを捨てていく人のこと、開発が進んでいくこと、マイカーが入り込んでくること、など。澄んだ本谷川とその支流の美しさ紹介しながら、ヘドロのような現実を教えてくれました。許せなくて、放っておけない現実に、何かしなければとの思いばかりが馳せます。「難しい、出来ないでは許されないんですよね。」という僕の言葉にうなずく運転手さん。このとき、運転手さんは、この環境を守るための行動をしたのだと感じました。さあ、君は何をするんだい?バケキチくん!


 増富温泉で、3日分、52時間の山ごもり分の汗を吸った体を洗い流しながら、湯治。ぬるめの増富の湯は、僕でも長湯が出来るくらい快適です。
 増富の湯と山梨峡北バスは提携しているのかもしれませんが、瑞牆山荘から韮崎駅まで出るバスで、増富の湯で途中下車できるように、乗車券と入浴代の割引をしてくれています。入浴する人は、割引券を購入すべきです(2000円で、韮崎駅まで直接行く料金と変わらない)。
 写真は、今日で終わりの朝市。夕方だけどね。老夫婦なのか、漬け物や甘露煮、野菜や餅キビ、豆などを売っています。価値を知らない人は割高に思うかもしれないけど、キビや豆は殆どが輸入です。ここでお金を使うことをいとうてマクドナルドなどでお金を使うことなど、僕からすればありえない。
 かくして餅キビとカボチャと花豆(須玉町産)を買って帰る僕でした。大阪の夫婦お二人も、すごく理解のある人で、こういう地元にお金を落とすことを重要視していました。偉そうな表現ですが、改めて素敵な旅人と出会えた気がしました。だてに「たまに旅をしない日もある」人をやっていない。


 韮崎駅から東京方面へのJRの接続は完璧でした。大阪の夫婦(名前を最後まで聞かなかったのが不思議なくらい)は塩尻経由で特急を乗り継いで帰るそうです。僕が所沢に着いた20時過ぎは、まだ中央線にいるでしょう。
 こうして、濃厚な旅が終わりました。辛かった分、良い思い出にもなっただろう。…と、前述の夫婦。まったくその通りです。歴史に「たら・れば」はないといわれるけども、「予定通り」にいっていたら、こんな旅にはならなかったと思います。屋久島で十分それは学んできたはずだったのですがね。
 長い日記を書いた25日は、写真の数200枚を超えました。そして、百名山#30瑞牆山、クリア。

天気:快晴(長野県南佐久郡川上村・山梨県甲府市・北巨摩郡須玉町・韮崎市)

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