Home > 未分類 > プリオンで頭がいっぱい

プリオンで頭がいっぱい

2006年 1月 2日

 朝から曇りがちの空模様の中、東海道線を鈍行を使って取手に帰りました。朝8時過ぎに出発して取手到着18時34分。寸分違わず、予定通りに完璧に到着。すっきりするねぇ!!
 帰り道は、息も同じところを通っていたんですが、やはり関ヶ原あたりの雪がすごいです。特に今年は線路が埋まるくらいつもっていて、枕木が全く見えません。景色も一面真っ白。信州伊那谷でもこんな風景あんまり無かった…。  今日は電車の中ではずっと本を読んでいました。講談社ブルーバックスの「プリオン説はほんとうか?」という、福岡伸一さん(青山学院大学の教授)の本です。ちょっと今日はこれにはまっていました。
※以下、ちょっと本の紹介
 今、アメリカ産牛肉が解禁になって、日本に入ってきています。安全が確認されたとか言って。だけどこの本は、それ以前の話から始まります。まず、今は常識とされている「異常プリオンタンパク質」が、BSE(狂牛病)やCJD(クロイツフェルトヤコブ病)などの病原体なのかという問題です。…って言うか、これから始まるっていうか、これを問う本です。結論からすると、「プリオン説は疑うべき部分が非常に多い」ということです。つまり、異常プリオンタンパク質がBSEなどの原因だとするには無理があるというのです。
 実は、僕もかなり前からプリオンが原因っていう話には疑問がありました。なぜなら、異常プリオンタンパク質そのものを与えて発病させた実験なんて一つもなかったからです。病気になった動物の脳みそをつぶして与えたら罹ったというだけで、ひょっとしたら、脳みそに入っていた、プリオンじゃない別の病原体がBSEなど(以後「プリオン病」)を引き起こしていて、その結果、異常プリオンが脳みその中にできてくるんじゃないかなと思っていました。福岡さんは僕が思っていたそのことをまさにズバリと書いてくれました。
 プリオンがBSEやヤコブ病の原因だとする説は、プルシナーという人が提唱して、ノーベル生理学賞までもらいました。彼は、プリオンというタンパク質が、生き物のように自己増殖し、感染性を持つ病原体であることを提唱して有名になりました。そして、その根拠となっているのは

  1. 異常プリオンタンパク質の濃度と病原性(感染性)に相関があるというデータ
  2. 正常プリオンタンパク質を作れなくしたネズミはプリオン病にならないというデータ
  3. 病原体の分子量(≒病原体一つ分の重さ)を測定するとウイルスよりも遙かに小さいタンパク質くらいしかないというデータ
  4. どんな不活性化処理(熱、放射線、化学物質など)にでも耐える病原体であるというデータ
  5. 異常型プリオンタンパク質は正常型プリオンタンパク質を異常型に変異させるという仮説

 だそうです。
 しかし、これらにはすべて穴があるというのが筆者である福岡さんの意見です。どんな穴かは、読んでみる以外そのすごさはわかりません。しかし、プルシナーさん自身の実験データをよく見ても1は誤りであることが判り(グラフの描き方の問題)、脳以外の臓器で行った実験では違うデータも出ています。2に関しては、超専門的なので、省略します。3は分子量測定の方法や考え方に問題があるようです。4についても、病原性の強弱を測っていない(定量していない)ことや、プリオンを不活性化するための実験条件に問題があることなどが指摘されています。5については、そもそも正常プリオンタンパク質の構造をプルシナーさん自身が間違っていたという話があります。
 福岡さん自身は、「プリオン病」はウイルスの可能性があると示唆しています。プルシナーさんのプリオン説に対する反証を通して「プリオン病」のウイルス説を提唱しています。いえ、提唱というほど確かなものではないかもしれません。なぜなら、その実態をつかむことは未だできていないからです。病原体の特定作業は今まで数多の科学者が試行しながらも成功せず、プルシナーさんのプリオン説の前にひざまずかざるをえなかったのです。今は福岡さんのもとに就いている学生たちが「砂浜から砂金を拾い出すような…(中略)…賽の河原の石積みにも似た」実験を繰り返しているようです。最後に、福岡教授の言葉を引用します。

 私は生命科学の研究者として、(中略)批判的に検討することに合理性があると思う。私はその努力を少しずつ続けてきた。もちろん、相手はノーベル賞まで受賞したセオリーである。これを疑って再検討を行うことは並大抵のことではない。(中略)コンスタントな業績評価が要求される研究者としては最も避けたいテーマである。しかし、私は(中略)このテーマを是非、少しずつでも検討してきたかった。なぜなら、私は埋蔵物があるかもしれないと思うからだ。(大きく中略)この問題が私だけの手には余るほどの大きな謎だからである。(中略)私ができることは限られており、私の研究者人生も限られている。
 (中略)プリオン病をめぐる諸問題はとてつもなく複雑で、ある意味で混乱に満ちている。しかし、だからこそ、私は問題の所在をできるだけ多くの人たちに知ってもらいたいと思ったのである。本書のような形で論点のありかを世に問い、ひとりでも多くの、若く意欲的な人が、斬新なアイデアを持ってこの問題の究明に参加してもらいたいと願うのである。先入観のない読者に、この分野に少しでも興味を持っていただくことができれば著者として望外の幸せである。(以後略)

 僕がこの本を絶賛するのは福岡さんの斬新な発想がおもしろいからだけではありません。彼は、こういうプリオン説の穴があるが故に、今の日本が全頭検査を規制緩和したり、危険部位さえ除けば(プリオンが出てくる部分さえ除去すれば)いいとしたりすることは危険だとする立場をとるからです。少し踏み外せば、「プリオンが原因じゃないんだから、プリオンを食べたところでどうってこと無い。」と言い出す科学者も出てくるかもしれないのに。
 科学系の本読んで、こんなに感動したのは、小倉正行著『多角分析 食料輸入大国ニッポンの落とし穴』以来です。
 旅日記じゃなくなってしまいました。ま、いいか。
天気:曇り時々晴れ(大阪市・東海道線・常磐線・茨城県取手市)

Comments are closed.